医療過誤慰謝料の算定「交通事故死より高額」 東京地裁判決

東京地裁で、「患者は医師を信じて身を委ねるのだから、信頼を裏切られた精神的苦痛が生じ、交通事故より高額になることもあり得る」と判断した判決があったそうだ。

少ないリソースで、膨大な数の患者の治療を行わなければならない医療の現場の苦労は一切省みず、訴訟を行う患者だけの立場に立った見解のように思われる。

過失により発生した損害は、当然填補されなければならない。

しかし、信頼を裏切られた精神的苦痛を交通事故に比べて重く見て賠償を増額する必要があるのであろうか。

要は、これからの医療訴訟の病院の賠償額は、交通事故に比べて精神的苦痛分だけ重くなるということである。

果たして、そのロジックは正しいのか?
疑問に思う。

医師の立場、患者の立場、それぞれがそれぞれの立場を考え行動をしなければ医療の現場は荒廃する。

この判決は、医療の現場を荒廃させる危険性のある判決であると考える。

この問題は、別な時に時間をかけてじっくり議論したい。

産経新聞平成18年7月27日
医療過誤慰謝料の算定「交通事故死より高額」 東京地裁判決
http://www.sankei.co.jp/news/060727/sha011.htm



産経新聞平成18年7月27日
医療過誤慰謝料の算定「交通事故死より高額」 東京地裁判決

 長野県の軽井沢町国民健康保険軽井沢病院で、出産後に死亡した自営業の女性=当時(32)=の夫や長男、母親が担当医師と病院を運営する町に計約1億8000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は26日、医師の過失を認め計約7000万円の賠償を命じた。
 医療過誤の慰謝料は通常、事例の多い交通事故を基準に算定されるが、藤山雅行裁判長は「患者は医師を信じて身を委ねるのだから、信頼を裏切られた精神的苦痛が生じ、交通事故より高額になることもあり得る」と異例の判断を示した。

 その上で今回のケースについて「医師は誤った認識から出血の兆候を軽視して帰宅し、患者を3時間も放置した。認識を改めてもいない」と指摘。慰謝料を交通事故で死亡した同じ年齢、生活状況の女性に比べて300万円ほど高く算定した。

 判決によると、平成15年10月、軽井沢町の鈴木良恵さんは同病院で帝王切開手術を受け長男を出産した後、腹腔ふくくう内の出血が原因で容体が急変、翌日転院したが死亡した。判決は医師が出血の可能性を検討する注意義務を怠ったと認定。損害額は良恵さんが将来受け取れたはずの収入などを約4000万円、慰謝料を2700万円などとした。

 原告側の安東宏三弁護士は「正しい方向性を示した判断だが、300万円の上積みでは遺族は納得できない。控訴したい」と話した。

 軽井沢病院は「判決が届いていないのでコメントできない」としている。


地域医療・自治体病院のマネジメント | コメント(11) | トラックバック(0)2006/07/27(木)07:49

コメント

司法が、感情に走りすぎていると感じます。
他の裁判でもそう。
きちんとした判断基準がないのでしょうね。
これは、ドクターたちが声を上げるべき問題だと思います。

2006/07/27(木)08:17| URL | 藤本晴枝 #- [ 編集]

藤本さんコメントありがとうございます。

>これは、ドクターたちが声を上げるべき問題だと思います。
医師が声を上げても社会になかなか伝わらない現実があると思います。

ドクターだけでなく、崩壊の過程にある医療を守らなければならないと考える人は声を上げる必要があると思います。

患者の側からの声がとても大事だと思います。

その点で、患者と医療現場をつなげようと言う藤本さん達の運動は評価されるべきと考えています。

ただ、この問題は、意見や感情の対立を起こしやすい問題ですので、注意して発言をすることも大事だと思います。

私も議論で言葉が足りなかったかなとも感じています。


2006/07/27(木)08:44| URL | 伊関友伸 #- [ 編集]

いや

この裁判官は超有名人です。
最高裁判事でもないからやめさせられないしね。

2006/07/27(木)14:47| URL | ssd #- [ 編集]

感想

医療の現場を荒廃させる・・・

もう遅いんじゃないですか?
すでに荒廃してしまっています。
心もすさみました。
自分を守るには医療は萎縮していくしかないですね。

訴えられたらたまらない。

2006/07/28(金)11:59| URL | 通りすがり #oV8DogZE [ 編集]

何もしないことが一番

何でもそうですが、医療も100%では無いですよね。すべてにおいて、常に100%を求められるのであれば、医療行為をしないことですよね。昔はこうじゃなかった。安い給料で昼夜無く働いて、夜中に呼び出されても「先生、悪いね、ありがとう」と言われれば、嬉しかったものです。そんな時代が懐かしいですね。もう何もしません。患者さんも医療過誤が嫌だったら、病院にいかないことですね。ドクターが声を上げるほど医師は元気じゃありません。一日15時間毎日365日働いたら、帰って寝るだけの生活です。

2008/01/25(金)19:36| URL | 私も疲れた #- [ 編集]

期待権の延長?

>この裁判官は超有名人です。

「超有名人」って、どう超有名人なんですか?

期待権が認められたときから、この種の論理が出てきそうだと思っていましたが、不法行為論の発展とみるべきなのか、裁判官の勇み足と見るべきなのか。トンデモ裁判官というなら定着しないだろうからいいのですが。

診断の間違い、思いも寄らない臨床経過で、後から考えれば予見可能性があると言えばあるかなと思えても、最初から思いつくのはやはり困難だったいう場合もしばしばあります。100%完璧に診断し経過を予測できる医師などいないのではないでしょうか。期待や信頼の法的保護が行きすぎているように思われます。賠償責任を認める際に臨床上の常識的判断を判断基準にしてもらいたいと思います。

2008/01/26(土)00:00| URL | 迷亭 #- [ 編集]

ダブルスタンダード

医療従事者は「患者は医師を信じて身を委ねる」とされても十分応えられるだけの環境になく、またそれだけの待遇も受けておりません。このケースについてではなく一般論としてですが、勝手に押しかけてきて最高水準の医療と「おもてなし」を当然の権利のように求められ、結果に不満があれば罵倒され訴えられる最近の風潮に対して、事務的にさっさと用事を片付けてしまおう、めんどうなことは避けようと思うことが多くなってきました。


>「患者は医師を信じて身を委ねるのだから、信頼を裏切られた精神的苦痛が生じ、交通事故より高額になることもあり得る」のだから、信頼を裏切られた精神的苦痛が生じ、交通事故より高額になることもあり得る」

最近は医療を刑事免責が必要な特別な行為とは考えず、行為の中に過失があれば一般の法律を適用して過失傷害・過失致死を問われます。そうであれば民事裁判とはいえ医療だからと特別扱いするようなこの判決はダブルスタンダードであり、感情移入により異例な法律の解釈を行うような人は、ホームとアウェイで笛の吹き方がかわるサッカーの審判のようなもので、法治国家の判事としての適正に疑問を感じます。公正な判断を期待する被告の立場からみれば信頼を裏切り精神的苦痛を与える判事としか思えないでしょう。

2008/01/26(土)10:38| URL | しろふくろう #SFo5/nok [ 編集]

医療過誤が轢き逃げ以上の非難?

慰謝料2000万円というのは、交通事故の死亡例でも最高額。縁のゆかりもない他人を酒酔い轢き逃げした場合の非難です。2700万円というのは700万円の上乗せ。300万円削るのでなく、700万円削ってもらわないと計算が合いません。
患者側の請求を削ってる様に見えて、実は基準額の上乗せを認めているということを見逃してはなりません。

医療による過失とは、その人のための医療を行うという本人利益のための行為に伴う過誤であり、故意ではない。(殺人意思のある故意なら別だが)

医療による不確実性は医療側と患者が分かち合うべきものであって、過誤があった場合でも例外ではない。

偏った事実認定も大問題だけれど、それ以上に患者が取るべきリスクを完全に医療機関に押し付けている訴訟のあり方が大問題。

それにしても慰謝料300万円の上乗せを狙って控訴するって、弁護士費用が更に嵩むだけなのに、訴訟人利益を考えてない弁護士の発言で?????
賠償のインフレを起こして、将来の収入を増やそうとする算段だとすると、非常に狡猾としか思えない

2008/01/27(日)11:42| URL | Med_Law #ZZ09rqD2 [ 編集]

控訴で金利5%!!!

弁護士費用の上乗せ分は、賠償金の金利5%でお釣りが来るかもしれない。
訴訟を引き伸ばして、3−4年掛かれば、7000万円x法定金利 5%x4年分=1400万円

低金利時代なら、勝ち戦を引き伸ばすのも、”有能な弁護士”の資質なのだろうか?

最高裁は事実認定に法的瑕疵があったとして、原告請求棄却を示唆して欲しいものだ

2008/01/27(日)19:19| URL | Med_Law #I3fNJS/M [ 編集]

信じられていたら家に帰ってはいけないのか?

産科の先生は大丈夫と思ったのだから帰宅したのでしょう。その先生には予見し得ない「結果的に大丈夫でなかった」ことが起こったと言うことは、その程度の可能性で全例泊まって観察しなければならないと言うことです。100%確実なことなど無い訳で「100%確実でないのに帰宅した」ことを責められたのでは医者など家には永遠に帰れません。
(そうでなくてもなかなか帰れないのに・・・)
こんなのは医療制度自体の問題でしょう。
そんなに心配なら全ての病院の全ての診療科を全部24時間体制(当然当直制ではなく夜勤で)にすべきでしょう。
後になってから「こうすれば良かった」は完全に遅出しじゃんけんです。

2008/01/27(日)20:24| URL | 地方小児科医 #jOHzQI1Q [ 編集]

民事とは言え労基法を無視して良いのか?

このケースだけピンポイントで帰宅しないと言うことはありえないはずです。帰宅できると判断した程度のリスクで全例そんな厳重な観察をしていたら完全に労基法違反でしょう!そんな何人も医者がいないような診療科でそこまで期待する方が間違っているのであって「期待を裏切った」と言うのであれば、最初から期待する方が間違いなのではないでしょうか?それとも医者は家にも帰らず、不眠不休で患者を診るのが患者から期待される姿なのですか?
司法もこんな個別例の判決で「ああすれば助かった」などと言うけれども、例えば同程度のリスク患者をその判決で求められているレベルで全て診療したら、その病院の業務がどうなって、その医師がどんな悲惨な勤務になって、医療費がどれだけかさむのか考えることがあるのでしょうか?
もっとマクロでものを考える程度の見識が我が国の司法にも欲しいものです。

2008/01/28(月)01:29| URL | 地方小児科医 #jOHzQI1Q [ 編集]

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元埼玉県庁の職員。 現在は埼玉県の坂戸市にある城西大学の経営学部の准教授で行政マネジメントを教えています。

伊関友伸

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