夕張市経営診断書
夕張市立総合病院の経営診断書である。
短い時間でまとめたため、完全ではない。
夕張市立総合病院への経営診断
1 経営診断の経緯
・平成18年6月20日、夕張市長は、夕張市が財政再建団体となる申請を行うことを表明した。
・平成18年6月29日、北海道庁は緊急検査を実施し、夕張市全体として短期借入金が288億円、長期借入金261億円、債務負担行為82億円、合計632億円の債務があることが明らかにした。
・北海道庁の検査によって、病院事業会計も31億円の債務があることが判明した。
・夕張市病院事業は、完全な破綻状態にあり、民間病院であれば既に倒産している。その一方、夕張市唯一の病院として地域医療を担っており、廃止はできない。
・一方、全国的な医師不足は夕張市立総合病院にも及び最盛期に11人いた常勤医師が、現在5名となり、今後病院長、診療部長の退職の意向を示している。残った3名の医師のうち、1名は南清水沢診療所の医師であり、実質2名の医師で病院の医療を行わなければならない状況にある。
・夕張市立総合病院の医療は崩壊の危機に瀕しており、病院経営のあり方について、緊急に方針を示し、改革を行う必要がある。
・このため、北海道庁を経由して、夕張市から、全国の病院経営改革に実績のあるアドバイザー2名に経営診断の依頼があり、今回の意見書提示に至った。
2 病院の経営状況
・夕張市立総合病院は、明治43年に開設された夕張炭坑病院を発祥とし、昭和57年、北海道夕張炭坑病院の廃止に伴って、夕張市が北炭から病院を買い入れ開設した病院である。
・病床数170床、内科のほか外科、整形外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、泌尿器科、リハビリテーション科を標榜している。このほか南清水沢地区に診療所を持つ。
・職員数は平成18年8月1日現在で正職員107人、臨時職員51人、非常勤職員13人となっている。
・近年医師・看護師の不足などの要因により、入院外来患者が急激に減少している。平成12年度と平成17年度の1日平均患者数を比較すると、入院患者数が、平成12年度の1日平均122人から平成17年度には1日平均79人と43人減少している。外来患者数は、平成12年度の1日平均489人から平成17年度には1日平均245人と244人減少している。
・入院外来患者数の激減により病院の収益も急激に悪化しており、平成17年度の医業収益が15億1652万円、医業費用が18億6184万円、医業収支比率82.9%、単年度の純損失は3億3371万円に及ぶ。
・夕張市立総合病院は、その甘い経営を金融機関からの一時借り入れで対応してきた。平成4年には一時借入金が10億円を超え、本来であれば経営の抜本的な見直しを行うべきであったが、夕張市役所はそのまま放漫な病院経営を放置してきた。放置してきた原因として、病院職員の経営意識の薄さに併せて、夕張市役所の不適切な会計操作の道具に病院事業会計が使われてきたことがあると思われる。
・さらに、本来地方公営企業の趣旨から一般会計から繰り入れるべき金額を病院事業会計に繰り入れてこなかった。地方公営企業法第17条の2では、地方公営企業の経費のうち、当該地方公営企業の経営に伴う収入をもって充てることが適当でない経費等については、地方公共団体の一般会計又は他の特別会計において負担するものとする旨定められている。北海道庁の市町村課の試算によると昭和63年以降で約6億円に及ぶ。夕張市役所は地方公営企業を経営する自治体としての責任を果たしてこなかったと言わざるを得ない。
・平成15年度から医師・看護師の退職が相次ぎ、市民に対して満足な医療を提供できない状態が続き、病院の収益が急激に悪化。年3億円程度の純損失を計上。平成17年度末の一時借入金33億6000万円に達することとなった。
3 職員の状況
・医師数−開院より医師派遣を行っていた北海道大学からの医師派遣が終了して以来、質の高い医師の安定的供給が望めなくなった。全国的な医師不足の影響もあり、本院において、平成15年度に8名いた常勤医師が、平成18年度には5名になり、今後院長及び診療部長の退職が予定されている。残った3名のうち1名は歯科医師である。残った2名では、170床の総合病院の診療を継続できる状況にはない。外科、小児科は診療科を標榜しているものの医師がいない標欠状態になっている。産婦人科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科は非常勤医師に診療を頼っている。給与については、卒後年数15年を経過をした経験のある医師の給与水準が北海道内の病院に比べて約300万円低い。このような医師の待遇の低さが、医師の退職につながっている面があると考える。
・看護師数−正看護師の数は、平成15年度の32名から平成18年度の26名に約19%減少している。修学資金貸付制度を創設するなどの努力をし、若手の正看護師を採用しても退職してしまう傾向が強い。准看護師は、平成15年度28名から24名に約15%減少している。看護師不足により、病棟においては、入院患者を今までどおり受け入れることができず、ベッドコントロールをせざるを得ない状況となっている。給与については、准看護師の給与が全国の病院に比べて年収で100万円近く高い状況にあり(経験年数15年で年収119万円の差)、病院経営を圧迫している。そのほか、看護助手が8名在籍し、病棟における介助などを行っている。
・コメディカルスタッフ−薬剤師4名、臨床検査技師6名、臨床放射線技師3名、理学・作業療法士2名、その他医療技術員7名、管理栄養士1名が在籍している。給食職員については外部に委託をしている。給与については、同じ経験年数で、全国平均に比べて年収で215万円高いケースがあった。
・事務職員−9名在籍している。給与は、全国平均に比べて年収で68万円から153万円程度高い。
4 患者の受診動向
・平成15年度の国民健康保険の支払状況を分析したところ、国民健康保険を使って入院した件数の70%は、夕張市立総合病院以外の市外の病院を利用している(うち札幌市内39%)。
・平成18年7月31日の入院患者を年齢別に分析すると入院患者総数67名のうち、70歳以上の患者が58名と86%にも及ぶ。夕張市の全人口の中の70歳以上の人口が約30%であるから、70歳以上の高齢者の入院の割合が非常に高いことが分かる。市人口の52%を占める15歳〜64歳の患者は、3名で約4%しかない。現場スタッフのアンケートを見ても、夕張市立総合病院に入院している患者の大多数は高齢者であり、現場において介護を行う割合が多い。
・外来についても、平成15年度の国民健康保険の支払状況を分析したところ、国民健康保険を使って入院外(ほとんどは外来)を受診した患者の64%が夕張市内の病院・診療所を使っている(札幌市内の病院・診療所を受診した患者は19%)。うち夕張市立総合病院の本院で受診した人は34%である。
・また職員アンケートや市職員の意見聴取で、病院に勤務する医師の技術が低いという意見が出された。
医師の技術が低い→患者が病院を信用しない→市外や市内の診療所に患者が流れる→収益が一層低下する→給与などの医師への待遇が悪くなる→医師が辞める、技術の低い医師しか集まらないという悪循環が生まれていると思われる。
5 各診療科の受診及び収益の状況について
・各診療科の受診の状況及び収益の状況については、図表1のとおりである。
・南清水沢診療所については、営業利益で2000万円の黒字が出ている。地域の医療を担う中核的な医療機関であり、患者の評判も良い。
7 病院組織の問題
・全職員(パートを含めて)を対象に職員アンケートを実施した。63件の回答があった。アンケートに対しての分析は以下のとおり
・夕張市立総合病院は組織として機能していない。
・病院としての方向性がない。人口減に対しての対応ができていない。
・病院長を始めとする幹部職員の経営感覚とリーダーシップが不足している。
・現場の意見がトップに伝わらない。病院の運営に反映されない。
・医師が不足している。技術レベルも低い医師が多い。
・現在いる医師が職員に対して独善的な態度を取ることも多い。
・患者の方々への接遇が不十分。
・病院が夕張市民の信頼感を失っている。市民の多くは、市内の診療所や市外の病院を利用している。
・職員も病院の経営危機に対して、危機感が薄い。コスト感覚がない。職員間のコミュニケーションも少ない。
・勤務年数の長い人が強く、自由に物を言えない雰囲気がある。封建的な職場風土がある。現場の風通しが悪いため、若い職員がすぐ辞める。
・職員に問題を先送りする体質がある。問題解決も場当たり的で、計画的でない。
・病院の要となるべき事務も多くの職員が市長部局からのローテーションで、病院の経営については素人である。一時的な腰掛けという意識が強い。
・診療報酬請求漏れが多い、医療費の未払い患者をそのままにしている。
8 市役所・市民と病院との関係
・平成18年6月まで、市内で発生した救急患者は、対応できる医師がいないのに関わらず、全て市立病院に搬送し、市立病院医師の指示を受けてから搬送するというルールを採用していた。
・現在は、現場で市立病院の医師に連絡を取り、指示を受けるという形に変更されているが、常勤医師2人の体制では、この体制も維持が不可能になると考える。
・保健福祉センターと病院の連携が全くない。予防医療という意識は病院のスタッフに少ない。
・職員のヒアリングによると、医療費を払うつもりがなく診療を受診する市民がいる。このような市民がいると医師・看護師などの医療スタッフもやる気を失う。市民も病院を市の財産として大事にする必要がある。
9 アドバイザーの基本的考え方
・病院経営アドバイザーの基本的考え方は次のとおりである
・夕張市役所の財政破綻による改革から病院を切り離し、病院が先行して自らを改革すべきである。市立病院の改革が夕張市ひいては全国の自治体病院改革のモデルとなることを期待している。
・準用財政再建団体となる以上、夕張市役所からの一般財源の投入はほとんど期待できない。
・病院自体が自立して経営できる体制をつくらなければならない。
・「親方夕張市」の意識を持つ夕張市職員が病院を運営することは困難である。
・過去市議会議員や監査委員が夕張市立総合病院の抜本的な改革の必要性を訴えてきたにも関わらず、市当局は問題を先送りしてきた。この点は厳しく指摘されなければならない。
・病院スタッフについては、経営が悪ければつぶれるという民間病院の職員の意識に比べて危機意識が足りない。自分たちの病院であり、経営が悪ければ皆が職を失うという「当事者意識」を持つ必要がある。
・改革はスピード感を持って行う必要がある。期限を明示し、全ての職員の力を合わせて取り組む必要がある。
・夕張市が病院を開設するものの運営は民間事業者が行う「公設民営」方式で病院を運営すべきと考える。
・大変残念なことではあるが、病院の医療スタッフは全員退職し、新しく指定管理者となる事業者の職員として働くこととなる。この際、給料水準は民間の病院の水準にならざるを得ないと考える。
・病院を運営する指定管理者は、全国から公募を行う。
・可能であれば、旧大江町立病院のように、職員が中心となり新たに医療法人を作り、民間の職員として自から病院の運営を行うことを期待する。
・医師の不足の現状から、過去のように医局に頼って多数の医師を確保することは難しい。確保できる最小限の医師でできる範囲の医療を行わざるを得ない。
・夕張市に必要な最低限の病院機能は存続させる。
・病院の提供する医療は内科、整形外科に特化する。
・救急、その他の医療機能については、市内の診療所や栗山日赤病院などと連携を図る。
・新病院の経営を安定的・継続的に行うため、歯科や非常勤で対応している診療科については廃止をする。
・入院患者の大多数を占める高齢者が行き先を見失うということは絶対に避けたい。ただし医療だけで対応するのではなく、福祉との連携で対応することを考える。
以上、簡単な報告を行うものである。詳しくは、「夕張市立総合病院経営診断中間報告書」をご覧いただきたい。
夕張市立総合病院・病院経営アドバイザー
公認会計士 長 隆
城西大学経営学部 助教授 伊関 友伸
地域医療・自治体病院のマネジメント
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│2006/08/31(木)00:30
