現場から 救急医療の現状を探る

朝日新聞兵庫版が、兵庫県内の救急医療の現場の状況について報道している。


現場から 救急医療の現状を探る
朝日新聞 2007年10月27日
http://mytown.asahi.com/hyogo/news.php?k_id=29000230710270001





現場から 救急医療の現状を探る
朝日新聞 2007年10月27日

 救急医療の足元が揺らいでいる。奈良県では、妊婦がいくつもの医療機関に受け入れを拒まれて死産する問題が起きた。現場では今、何が起きているのだろうか――。

 10月のある平日。西宮市の兵庫医科大学病院。午後6時23分、静まりかえった敷地内に救急車のサイレンがこだました。音が大きくなるとともに、病院北東の救命救急センターは騒がしくなった。
 医師が階段を駆け下りる。救急車が入り口に横付けされると、救急隊員らはストレッチャーに乗せた患者をすぐに下ろし、出迎えた医師らが患者を囲む。
 「いたい、いたーい」
 叫ぶ患者の名前を確認し、処置室に運び込む。「大丈夫」と声をかけながら、患者に機器を取り付けて治療が始まった。
 患者は、阪神間の高齢男性。胸に痛みを感じていったんは近くの病院に運ばれたが、症状が重いため、高度医療を担う同センターに搬送された。
 センターの医師、研修医に加え、連絡を受けて駆けつけた専門科の医師も含め、計10人が、最初に運ばれた病院から引き継いだコンピューター断層撮影(CT)画像を見ながら、腹部エコー、心電図など様々な検査を施す。部屋の隅にある白板に、救急隊員が病歴や搬送経緯などの情報を書き込む。約20分間、医師らの手は止まることなく動いた。
 午後7時すぎ、大動脈瘤(りゅう)とわかり、緊急手術が決まった。男性は助かった。
 手術室の準備や麻酔医のスタンバイは、男性が運び込まれるのと同時に始まっていた。
     ◇
 救急医療の現場では、いつ患者が運び込まれるかわからない緊張感が続く。救急で入院した患者らの経過を見守る必要もある。
 「それは体もしんどいし、精神的にもしんどいですよ」。同センターの大家宗彦助教(48)は話す。「だが、現実に宿直では研修医とスタッフが4人しかいない。患者が立て込むと手が回らなくて、搬送を受け入れられないこともある。断ったときの申し訳なさや、精神的な負い目も感じている」という。
 丸川征四郎教授は「中堅医師がもう1人、2人いたら、負担が減ってがらっと変わるだろう。だが、それが出来ないのは世の中に救急を担う医師が少ないから」と話す。「救急対応は、人の命を守るということに意義を感じて、自身の生活や時間を削ってでも、患者さんに命の灯を手渡すことが大切だと思っている医師の熱意で支えられている」
 センターの壁の向こうから、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
     ◇
 県内の救急医療は、患者の症状によって1〜3次に振り分ける仕組みになっている。症状が軽いと「1次」、入院や手術が必要な場合は「2次」、症状が重く高度な医療が必要なときは「3次」。症状を見極め、どの医療機関へ搬送するかの判断は、主に救急車に同乗した救急隊員に委ねられているのが現状だ。
 1次は、県内を40地区に分け、当番制で対応する開業医(27カ所)や休日夜間急患センター(21カ所)で実施している。
 2次は、県内を13の地域に分け、医師会などを通じて当番を決めている。神戸市の場合、市内53病院が参加した市第2次救急病院協議会が当番を決める。「外科」や「内科」など科目ごとに輪番を持っている。06年に同市の救急隊が搬送したのは5万7208人(速報値)。このうち7割近くの3万9199人(同)が2次輪番の病院に運ばれた。
 3次は、県内6ブロックで7病院が担っている。
 県内の救急搬送人数は、95年に15万1588人だったのが、05年は20万8108人と増加傾向にある。
     ◇
 休日に家族と外出中に、手術のために呼ばれて病院へ。翌日も外来診察や手術に追われ、そのまま朝まで当直勤務――。神戸徳洲会病院(神戸市垂水区、229床)に勤務するある医師の仕事ぶりだ。
 同病院は積極的に救急搬送患者を受け入れ、02年に年間1498件だったのが、06年には1999件になった。06年には常勤医師3人が病院を去ったが、設備を整え、非常勤の医師を採用するなどの試みを続けている。
 同病院が救急医療に本格的に取り組み始めたのは、神戸市の第2次救急病院協議会に参加した03年。
 救急医療において、磁気共鳴断層撮影装置(MRI)やCTといった患者の状態を判断する機器は欠かせない。当時、それらの機器を使いこなせる技師は少なく、24時間の救急医療に対応できるだけの技師を育てることから始めた。さらに、術後の重症患者のための部屋を設けた。
 医師の負担を減らす対策も講じた。当直勤務の一部を委ねるため、大学病院などに勤務する医師を非常勤で採用した。今年10月現在、当直にあたる常勤医師が計7人いるのに対し、当直の非常勤医師は計17人となった。
 上原正憲副院長(47)は「病院の医師で賄うのが理想だが、役割分担によって負担も軽くなる。救急の現場に携わりたいという医師は多いが、現実は厳しい。地域の救急医療を維持していくためには、対策を考えていかないとならない」と話した。


◆患者のニーズ応じ養成を/関西医科大枚方病院 北澤康秀准教授に聞く
 救急医療の現状、課題とその対策について、関西医科大付属枚方病院(大阪府枚方市)の救急センター長・北澤康秀准教授に聞いた。
     ◇
 ――救急医療の担い手は足りているのか
 救急医療は崩壊している。病院、医療者は「ヒト無し、カネ無し」でみんな疲弊している状態だ。
 「救急医療=重症患者を診る」というイメージだろうが、実際に搬送されるうち、3次医療を必要とする重症は3%くらい。大学の救急医学教室は、その3%に重点をおいた「特殊部隊」を養成している。
 ではその特殊部隊が、残る97%を果たして診られるかといえばそうではない。
 97%は、例えば一見軽症にみえる腹痛などで、それが大きな病気の前兆か否か、入院が必要か否かの判断を求められる患者だ。それを診ることのできる医師が足りていない。
 ――搬送の受け入れ拒否が問題になることもある
 救急はリスクも大きく、トラブルになることが多いため、病院が救急医療に及び腰になっている。これは、行政が義務を課す「締め付け」と補助金を出す「報奨」のコントロールで可能だろう。
 ――今後、どうしていけばいいのか
 時代にあった、患者のニーズに応じたシステム作りが必要だろう。
 その第一歩に、患者のニーズのある医師養成をしていかねばならない。97%の患者の判断が出来る人材をつくることで交通整理、効率化が可能だろう。
 次に、地域医療機関の役割分担をきちんと機能させることが必要だ。
 地域の医療体制を支えているのは、中規模の民間病院だ。そうした病院どうしが、横の連携をとって新しい仕組みを構築したらいい。このときにリーダーシップをとりやすいのは自治体病院。救急隊員と雇用主が共通していることもあり、情報も共有しやすいし、何よりも市民の医療を守っていくべき立場だ。地域医療を引っ張り、指導の中核を担っていくのに適任ではないだろうか。


地域医療・自治体病院のマネジメント | コメント(0) | トラックバック(0)2007/10/31(水)21:45

«  | HOME |  »


プロフィール

元埼玉県庁の職員。 現在は埼玉県の坂戸市にある城西大学の経営学部の准教授で行政マネジメントを教えています。

伊関友伸

Author:伊関友伸

連絡先 iseki@pm-forum.org

ブログ検索

カウンター


今日

最近の記事

カレンダー

09 | 2008/10 | 11
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

最近のコメント

最近のトラックバック

なかのひと